メトロ文学館

2025年【第41回受賞作品】

電車内で、文化的な雰囲気と潤いを感じていただくため、「東京で感じるあなたの心」をテーマに詩を募集いたしました。ご応募いただいた作品の中から、優秀作品を電車内のポスターとして掲出(期間限定)するとともに、優秀作品及び入選作品※をご紹介いたします。
※入選作品は期間限定でのご紹介となります。予めご了承ください。

【審査員選考記】

審査員 詩人・エッセイスト 白石 公子 氏 しらいし こうこ

一期一会のやさしさ 

 みなさまのおかげで、ここに2025年夏「第41回メトロ文学館」が催されることとなりました。今回は東京内外から全588編(延べ人数301人)の応募がありました。応募総数500編を超えるのは、実に3年ぶりのことです。たくさんの心温まる作品を寄せ下さり、ありがとうございました。
 みなさまの応募作品を読みながら、東京、都会の人込みの中だからこそ、気づかされる「やさしさ」というものが、確かにある、と改めて感じました。「メトロ文学館」でもそんな東京ならではのやさしさに触れて、はっとする瞬間、心が晴れやかになる瞬間を描いた作品を紹介してきました。真っ先に思い出す作品――それは終電間際の混んだ電車に、大きな花束を抱えた初老の男性が乗り込んできたところからはじまります。定年日を迎えたとわかるその男性は、駆け込んできた人たちに奥へと押し込まれてしまいました。満員の車両のなか、大きな花束だけが頭ひとつ浮いているのを見ていた作者は、ふと気がつきます。電車が揺れるたびに、周囲のひとたちが男性を押さないように、花束をつぶさないように、それぞれが力加減を意識しながら立ってつり革を握っていることを。男性が降りようとするとき、さっと出口までの通路が広がりました。乗り合わせた誰もがその花束を持った男性を見守り、見送った――そんな光景が鮮やかに浮かんでくる作品でした。
 これこそ電車ならではの「一期一会のやさしさ」ではないでしょうか。電車とは不思議な空間です。このようなちょっとしたやさしさに触れた瞬間、なぜか「頑張ってみよう」という前向きな、明るい気持ちが生まれます。メトロ文学館は、これからもやさしい気持ちに背中を押されるような、そんな作品をどんどん紹介していきたいと思っています。 

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【第41回優秀作品】

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「お盆時」

宇田川 直孝

東京、お盆ならではの独特な静寂を「町に自分だけ独り/ぽつんと残されてしまった思い」が切ない郷愁を込めて綴られていました。

「白菜の神さま」

宮本 智子

やさしい言葉、あたたかいご飯と白菜の浅漬けが心身に沁みわたるとき「だいじょうぶの神さま」が微笑んでくれているはずです。

「都内への通勤」

大坂 浩二

「都内への通勤」時の密かな楽しみ、車窓に追う富士山。桜の時期のベスト・ショットを言葉で切り取って私たちに見せてくれます。

「一眼レフとトキメキ」

佐久間 恵美

一眼レフを通して見ることで、いつもの町が「こんなにもトキメキであふれていたなんて!」。カメラの魅力と生きる歓びが溢れます。

「オリジナルなしあわせ」

小林 葉子

家族で心を寄せ合い、言葉をかけ合うことがいかに幸せか――夜夫婦でドラマを見て、次回の展開を語り合うシーンが大好きです。

「道案内」

大屋 雅広

インバウンド増加により外国人と接する機会が増え、微笑ましいやりとり、映画のようなワンシーンが生まれているのでしょう。